ESGの潮流を捉えた経営戦略のアップデート

ESGの潮流を捉えた経営戦略のアップデート
目次

はじめに

ESG重視のトレンドが世界的に過熱していく中で、企業を取り巻くルールは着実に変化しています。この流れを好機ととらえ最大限に活用するためには抜本的な経営戦略のアップデートが必要です。
我々Strategy Innovation Groupは、ESGの潮流を捉えた戦略策定の支援を行っています。今回は、Strategy Innovation Groupで支援した中期経営計画策定プロジェクトについて取り上げ、事業ポートフォリオの変革や新規事業開発によってESG経営を体現したケースをご紹介します。

1.ESG重視の潮流

近年、企業を取り巻くステークホルダーはESGを重視するようになり、企業を評価する物差しも変化しています。ここでは投資家の観点から考察します。

ESG投資の拡大に伴い、投資家は従来の財務情報に基づく企業価値評価に加えて非財務情報を重視するようになってきました。ESG投資は、2006年に当時の国連事務総長コフィー・アナン氏が機関投資家に対して「PRI(責任投資原則)」を提唱したことがはじまりとされ、国内では2015年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の国連責任投資原則への署名を機に投資原則にESG要素を加える投資家が主流になっています。GSIA(世界持続的投資連合)によると、2022年の世界のESG投資額は30.3兆ドル(約4,500兆円)で日本国内では4.2兆ドル(約620兆円)に上るとされています。

ESG投資では従来の財務情報に加えて、統合報告書、サステナビリティレポート等に記載されるESG課題に対する企業の取り組みといった非財務情報が重視されます。非財務情報の開示基準やフレームワークは欧米が先導しており、気候変動の分野では2017年にFSB(金融安定理事会)からTCFD提言が公表されて以降、多くの企業がこの提言に沿った情報開示をおこなっています。国内では2023年3月期より、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報に関する開示が義務化されました。

注意すべき点は、投資家の関心は社会課題の改善への貢献自体ではなく、あくまで金銭的なリターンに向けられていることです。ESG投資にはいくつかの種類がありますが、最も主流なのは「ESGインテグレーション」と呼ばれる、ESGファクターを従来の財務ファクターに加味して投資判断をするものです。例えば、同じ業界であっても将来的に政府の規制やペナルティー、税金等で収益性の低下が予想される事業の縮小を行っている企業は、そうでない企業と比較して長期的なリターンが高いと評価されます。逆に、見せかけだけの環境対応を謳っている企業は「グリーンウォッシュ」とみなされ投資対象から外される可能性があります。つまり、経営者はESGの取り組みがどのように中長期的な業績改善につながるかを明示的に投資家に説明する必要があります。


※Global Sustainable Investment Review 2022:https://www.gsi-alliance.org/members-resources/gsir2022/

2.必要とされる経営戦略のアップデート

昨今のESG重視の流れは、軽視すれば投資家や消費者から選ばれなくなるリスクをはらむ一方で、取り組み次第では資本市場からの評価を向上させ、これまでになかった需要を取り込み、事業を拡大させるチャンスにもなり得ます。チャンスを生かすためには、環境負荷等に対する短期的な手当てではなく、企業理念の見直しや事業ポートフォリオの変革、新規事業開発、イノベーション創出といった経営戦略の抜本的なアップデートが必要です。日本では今なお事業と切り離された独立した取り組みとしてESGを捉えている企業もありますが、ステークホルダーが求めているのは「生業」の変革という意味でのSX(Sustainability Transformation)であり、ESGを経営アジェンダとして位置づけ、サステナビリティと企業戦略を融合させていくことが経営者に求められています。

3. ESG経営を体現した中期経営計画策定プロジェクトの事例

ESGを踏まえた戦略策定のプロジェクトとして、私たちが支援した企業の中期経営計画策定支援のケースについて、ご紹介します。

①ビジネスモデルの変革

同社は、直近数年間で順調に売上を拡大していたものの、中長期的に更なる成長を遂げるためには、サステナビリティと企業価値向上を両立できる事業へ軸足を移していくことが必要でした。我々は主に事業ポートフォリオの見直しと新規事業開発を支援しました。

事業ポートフォリオの見直しでは、ESG関連のシナリオ分析を踏まえながら、同社が抱えていた複数事業の中長期的な成長や収益を分析しました。そして、今後注力すべき領域を特定し、注力領域への経営資源の再分配計画を策定しました。

また、注力領域の拡大に向けて新規事業の開発が必要であったため、アイデア創出とビジネスモデル構築を推進しました。まず管理職を対象に実施した事業アイデア創出ワークショップでは、メガトレンドのインプットとディスカッションのファシリテーションを行い、インパクトと実現可能性の観点から新規事業の候補を幅広く抽出しました。ビジネスモデル構築においては、市場・競合・自社の環境分析からより細分化された参入市場の抽出と、提供ソリューションの具体化を進めました。市場参入手段としては、M&A、提携、オープンイノベーション、自社ケイパビリティの強化などの方法を比較し方向性を議論するとともにソリューションとして、サブスクリプション型サービス等も含めた新しい需要の創出も検討しました。

②ステークホルダーとの対話

同社はESG経営を体現する企業であることをしっかりと投資家にアピールしたいという課題も抱えていました。我々は企業理念および戦略体系の整理とIR公表資料の作成も支援しました。

戦略体系の整理としては、グループ会社を含め複雑な階層構造になっていた企業理念を再構築し、パーパスを頂点にビジョン、ESGマテリアリティ、事業戦略が一貫性をもって説明できるようにしました。さらに、中期経営計画の重点施策やサステナビリティ施策のマッピングを行い、外部から見てESGを中核とした事業を行っていることが一目でわかるようにしました。

中期経営計画の開示にあたっては戦略や数値計画はもちろん、サステナビリティ関連における活動報告、資本政策立案を含めて資料作成を支援し、資本市場から評価されるポイントを押さえたアウトプットを共創しました。

4.おわりに

ESG重視の潮流から対策は待ったなしであることは間違いありませんが、ESG要素の企業価値への反映手法などは発展途上の部分も多く、先行きは不透明です。このような状況において、経営者はトレンドやフレームワークを盲目的に追随するのではなく、何を実現すれば自社の中長期的な価値向上につながるのかを自らの視点で考え、ステークホルダーと対話をしていくことが重要です。我々Strategy Innovation Groupはお客様に寄り沿い、あるべき論に捉われない本質的な変革を支援します。


フューチャーの
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